Journal — For Athletes & Leaders

一点を見つめるほど、見えなくなる

Vision — 視野の科学

剣道に「遠山の目付け」という教えがあります。目の前の相手を睨むのではなく、遠くの山を眺めるように全体をぼんやりと観る ── この古い口伝を、いま視覚科学が裏づけています。

一点を凝視すると、視野は締まる

人は強い脅威やストレスを感じると、その対象を凝視します。すると視野は無意識に狭くなり、周りが見えなくなる ── いわゆる「トンネルビジョン」です。目の前の一手に気を取られた瞬間、横から来るもう一手が見えなくなる。これは意志の弱さではなく、人間の視覚と注意の構造そのものです。

一つの危険を凝視した瞬間、視野は驚くほど狭くなる。そして、横から来る一手が見えなくなる。

一流は、凝視しない

熟練したアスリートの目の動きには、明確な特徴があります。相手の拳や足の一点を追いかけるのではなく、体幹や頭部など動きの少ない場所に視線の「軸(ピボット)」を置く。そして、拳や足が動き出す“起こり”は、中心ではなく周辺視で捉えています。

結果として、熟練者は視線の移動が少なく、相手の意図を先読みするのが速い。一方、未熟な選手は飛んでくる拳を目で追いかけ、視線が散り、後手に回ります。「楽に見えるのに対応が速い」選手は、目の使い方からして違うのです。

  • 熟練 = 少ない固視で、全体を把握する
  • 未熟 = 拳を追って、視線が散る

なぜ周辺視が効くのか

中心視(凝視)は、解像度が高い代わりに範囲が狭い。一点に集中するほど、その周りの情報は意識から消えます。対して周辺視は、解像度は粗くても「変化・動きの予兆」を広く同時に拾うのが得意です。

柔らかい中心軸を保つからこそ、周辺視が複数の脅威を一度に捉えられる。凝視は、その能力を自ら閉じてしまう行為なのです。剣道の「遠山の目付け」は、まさにこの仕組みを経験的に言い当てていました。

これは、経営にもそのまま効く

目の前の火事(一つの危機)を凝視するほど、その横で生まれている小さな兆し ── 顧客の変化、現場の不調、競合の動き ── が見えなくなります。一点への過集中は、リングでも会議室でも同じ罠です。

優れた経営者は、一つの問題に飲み込まれず、中心軸を保ったまま盤面全体を観ています。複数の変化を同時に捉えられるかどうかが、打てる手の数を決めます。

視野の広さが、打ち手の数を決める。リングでも、経営でも。

視野は、鍛えられる

「視野が広い」は生まれつきの才能ではなく、目の使い方という技術です。どこに軸を置き、何を周辺視に委ねるか ── これは観察し、定義し、訓練できる。CORE STILL は、感覚や根性ではなく、物理とエビデンスに基づいてこうした能力を鍛えます。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の競技指導・医療行為に代わるものではありません。出典:ボクシングの視覚探索に関する研究(2025–26)ほか、視覚・注意に関する一般的知見に基づく。

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